『バイセクシュアルな夕暮れ』
2001年 劇団とっても便利の21世紀
劇団とっても便利、2001年を、初の三都市ツアー公演にして初の東京公演。そして代表作『バイセクシュアルな夕暮れ』四演目で締めくくった。
公演数はのべ16ステージ、総予算はこれまで最高の550万円。チラシも過去最高の13万枚。もちろん、のべ観客動員数も過去最高を記録した。
今回は、制作日誌にもあるように、かなり以前から入念に準備をしてきた。なにぶん四演目であるため、今までとまったく違ったものを作らなければならない。照明にアートステージプロから澳義則氏を、舞台美術には新国立劇場と二期会オペラ振興会の共催オペラ『沈黙』や松本人志のビデオ『頭頭』のキャラクターデザイン・美術な
どオペラ界・TVで活躍中の増田寿子氏を、映像監修に映像作家・櫻井篤史氏を迎えて強力なスタッフ陣と、何度も話し合いがもたれた。
結果、8月のはじめ頃には、大量のTVを使う演出が決定し、劇団とっても便利としてははじめて本格的に映像を取り入れた演出をすることになった。
実は、演出の大野裕之は、映像の専門家でもあるし、ロンドンで最先端の舞台演出を見ていることもあって、安易に映像を取り入れる日本の小劇場のやり方にはかねがね疑問を感じており、これまで6年間のあいだ「プロジェクターを使ってスクリーンに・・」などという演出を避けて来た。
それが今回初めて導入する理由は、劇場でお配りしたsouvenir brochureに書いている。初演時(96年)には、この作品は「芸術でも学問でも、ちょっとマイノリティの要素をとりいれて、味付けすればそれで良いといういいかげんな物が氾濫して」いるという風潮を否定したうえで、性的マイノリティとその多様性の肯定を作品のテー
マとしていた。もちろん、初演時のテーマはいまだ有効であるとして、大野は「このミュージカルの『テーマ』について再考してみた。確かにポリティカル・コレクトネスで、マイノリティの芸術ならば良いという風潮はまだあるにせよ、以前ほど流行ってもいない。ならば、今なぜこの作品をするのだろう?」と自問する。それに対する
答えは、先にあげたスタッフ陣との対話から出て来た。「この作品は、すごくポップで表層的なコメディでもあり、かつその向こうにはどろどろの情念が煮えたぎっている・・・。照明の澳さんと舞台美術の増田さんとお話していたとき、『この二重性をどうやって表現するの?』と問われ、ふと『テレビ』という巨大な政治装置に気付いた。テレビをつければ、今日も『構造改革』という言葉が連呼されている。ポップな流行語になるほどの、その中味の無さ。また中味の無いという恐さ。そして、気がつ
けば『日の丸・君が代』が法制化され、恐ろしい教科書が検定合格し、遠く外国に自衛隊が進出していくという不気味さ。僕達の時代に政治的な問題はないと言ったのは
誰だろう。『政治的なものはない』と思わされるほどまでに巧妙な政治。それがテレビなのだ。・・・こうして五年がかりで、僕はこの作品の大きなテーマを発見した。」
こうしてテーマを発見したわれわれは、大量のTVを使い、舞台全体が傾いているように見えるユニークな舞台美術(2001年12月の東京の青山子供の城ギャラリーであった美術家展に出品され高い評価を得た)を軸に、衣装、照明、音響など、演出に関わ
るすべてを洗い直し、四演目にして、最大の改訂を行った。制作日誌にも書かれてある通り、京都の反応を見て、東京では振付けと衣装を全面改訂するなどレベルアップ
に余念がなかった。
ますだ美季、後藤裕子、のむらしんいちろう、大野裕之がそれぞれの当たり役に再挑戦。いずれものびのびと演じ切った。
また、大阪公演のレポーター役に、奈須崇さん(スクエア)が客演。「GOOD MOTHER」に続く出演で、ファンのあいだでも大好評だった。
結果、京都、東京では連日立ち見の超満員。とくに東京では「惑星ピスタチオ以来」(劇場支配人)という盛況ぶりで、日本の新しいミュージカルへの期待の高さを伺わせた。ロングランの大阪でも口コミで評判が広がったのか、後半の公演では立ち見を記録し、噂が噂を呼んだらしく訪れた観客の七割が当日券入場者という公演もあった。
東京公演の様子は「演劇ぶっく」誌などでも大きく取り上げられ、「Lマガジン」誌では2002年の最注目劇団としてあらためて紹介された。
劇団とっても便利としては、かつてない規模と新しい試みに充ちたツアーは大成功に終わったと思う。さして意味を持つとも思えない2001という年号に積極的な意味を与えることが出来たといえば大袈裟に過ぎるだろうか?その真価は、今後のわれわれの活動にかかっている。
劇団とっても便利2001年京都=東京=大阪三都TOUR
オリジナルミュージカル バイセクシュアルな夕暮れ
作曲・脚本・演出=大野裕之
振付=ミス・イヴォンヌ
出演:ますだ美季、後藤裕子、大野裕之、のむらしんいちろう、他。
<京都公演トライアウト>
スタジオ・ヴァリエ
(京都市バス201、206系統「近衛通」下車東へ徒歩2分。京阪 「丸太町」駅下車徒歩15分)
2001年10/13(土)3.00/7.00
14(日)1.00/5.00
(開場は各30分前) <東京公演>
新宿タイニイ アリス
(第5回アジア小劇場ネットワーク東京公演ALICE FESTIVAL2001 参加作品)
(新宿駅東口から徒歩10分。地下鉄丸の内・新宿線「新宿三丁目」駅C-8 出口より徒歩2分)
2001年 10/20(土)3.00/7.00
21(日)1.00/5.00
(開場は各30分前) <大阪公演>
梅田HEP HALL(HEP HALL提携公演)
(阪急梅田駅すぐ、JR大阪駅徒歩5分。HEP FIVE8 階 観覧車乗り場すぐ横)
2001年 12/12(水)7.00
13(木)4.00/7.00
14(金)7.00
15(土)3.00/7.00
16(日)1.00/5.00
(開場は各30分前)
協賛:ザジフィルムズ、MPC、二条自動車教習所(大阪公演)
協力:National/Panasonic the Staff
作曲・脚本・演出=大野裕之
振り付け=ミス・イヴォンヌ、ますだ美季
オーケストレイション=川口潤、ブライアン=タン、川口智士、小泉大輔、佐藤ノブ、 陽葦華、大野裕之
照明=澳義則(fromアートステージプロ )
照明補=三澤裕史
音響=犬島和宣(from WANSK)
音響補=西村崇
舞台監督=竹内充晴
舞台美術=増田寿子(from スタッフユニオン)
宣伝美術=大向一輝
小道具=鴨谷敬史
衣装=沖田文子、山本千聡、三宅智子、田島幸恵、森谷直子
後援=京大映画部
制作=中屋宏隆、鴨谷敬史、大野裕之
名誉制作=みさちゃん The Company(京都=東京公演)
夢子:ますだ美季
ちづこ:後藤裕子
チーター:大野裕之
ギュスターヴ:のむらしんいちろう
ダルジュロス:竹内充春
チーターの妻:きぬきぬ
レポーター:浅野高光
群集:吉田悠来
ちづこダンサーズ:ミス・イヴォンヌ、マキタ・キャロット、皆都いづみ、増田早希、 朝隈ユイ
TV司会者、マネキン:山下多恵子
TVコメンテイター、小学生の患者:伊藤恵一
TVコメンテイター:砂守岳央
TVコメンテイター、シンポジウムゲストのトマト:高木夏子
シンポジウムゲストのばうちゃん:中山拓
赤面症の患者:タジマール
マネキン:八田幸恵、鷲尾直彦、石川早苗、吉田沙恵子/吉田妙子(京都公演10/14 のみ) The Company(大阪公演)
夢子:ますだ美季
ちづこ:後藤裕子
チーター:大野裕之
ギュスターヴ:のむらしんいちろう(12/12,13は服部有希)
ダルジュロス:竹内充春
チーターの妻:きぬきぬ(12/13の16.00公演は高木夏子、12/15の15.00公演は朝隈ユ イが出演)
レポーター:奈須崇(from スクエア)
群集:吉田悠来(12/13の16.00公演は竹内充春)
ちづこダンサーズ:ミス・イヴォンヌ、皆都いづみ、朝隈ユイ、森住裕里、吉田妙子、 山口令、遠藤ゆか
TV司会者、マネキン:山下多恵子
TVコメンテイター:伊藤恵一・砂守岳央・高木夏子(木・土)、梅崎萌・中島ボイル・ 近藤由利子(水・金・日)
シンポジウムゲストのトマト:高木夏子(12/13の16.00公演は丹羽実麻子)
シンポジウムゲストのばうちゃん:中山拓(12/13の16.00公演は丸山潤)
小学生の患者:伊藤恵一
赤面症の患者:タジマール
ensembles:八田幸恵、鷲尾直彦、吉田沙恵子、吉田妙子、原田美保子、福田桃子、 橋本純平、浅野高光、和久愛子、森山ゆい、真岬直江、桑原亜希、オガキ、森谷直子、
山本千聡、千田かやの <概要> かつての人気心理学者チーターは、ライバル学者のちづこに対抗すべく自分がバイセクシュアルであることをカムアウトして注目を集めようとするが....。閉鎖的な世界のなかでの愛憎渦巻く人間関係、セクシュアリティと自我、マイノリティの権利の問題を、メロディアスなバラードから現代音楽まで、ジャズダンスからコンテンポラリーダンスまでを取り入れたダンス、そして今回は映像を取り入れた演出で、ポップに限りなくポップに盛り込んだ傑作悲喜劇ミュージカル。
|